精密などんぶり勘定 – 在庫は、なぜいつも多すぎるか少なすぎるか

精密などんぶり勘定とは

経験と勘で行っていた見積もりを、実績データとの照合で継続的に補正し、人や日によるばらつきを小さくする手法です。補正には機械学習などを使います。

どんぶり勘定なのは、細かいところは丸めて、結果が変わるところだけを見るからです。

精密なのは、人間と違って、過去との答え合わせを自動で続けるからです。人は昨日の外れを忘れたり、たまたま当たった日だけを覚えていたりします。ソフトウェアは毎日の実績を全部同じ重さで覚えていて、ずれた分だけ次の日の見込みを直します。

在庫と欠品の、ちょうどいいところ

輸入商社が、海外の工場から3人掛けソファを仕入れて、国内のインテリアショップに卸します。出荷は平日だけで、普段は1日5〜6台ほど。新生活の3月〜ゴールデンウィーク前は約3倍、通販モールのセール(3月・6月・9月・12月の上旬、数日間)は普段の3倍以上に跳ね上がります。1月1日を1日目として、この1年の出荷で試します。梱包は1台あたり約1m³で、海外への発注は毎週月曜、40フィートコンテナ1本(60台)単位です。

在庫が足りないときは、注文は「入荷待ち」として残り、入荷したら古い順に出荷します。ただし3週間以上待たせると、お客さんは他で買ってしまう(キャンセル)とします。

お金は、海外に発注した時点で出ていきます。倉庫にある在庫だけでなく、船の上の在庫もお金としては寝ています。届くまでの日数も、船の遅れや通関でぶれます。

①も②も、去年の実績から「いつ山が来て、いつセールがあるか」は知っているとします。違うのは、余裕の持ち方です。目指すのは、寝ているお金を減らしつつ、入荷待ちもできるだけ出さないことです。ただ、この2つは引っ張り合います。下のつまみで自分の発注ルールを作って、どこまで両方を下げられるか試してみてください。

① 経験のある担当者のルール

見ている期間の出荷の平均で、届くまでの分を頼む。そこに余裕を「何日分」で足す。山やセールの前は余裕を増やし、船が遅れたら次からその分を見込む。

入荷待ちにした台数(1年)–
うち、キャンセルになった台数–
平均の待ち日数–
倉庫の在庫(平均)–
寝ているお金(倉庫+船の上)–
倉庫の床(2m積み・一番多い日)–

② 精密などんぶり勘定

見ている期間の出荷の平均に加えて、出荷のばらつきと届くまでの日数のぶれを測り、入荷待ちを決めた水準に抑える量だけ頼む。

入荷待ちにした台数(1年)–
うち、キャンセルになった台数–
平均の待ち日数–
倉庫の在庫(平均)–
寝ているお金(倉庫+船の上)–
倉庫の床(2m積み・一番多い日)–

釣り合いの図:横が寝ているお金、縦が入荷待ち

左下ほど、お金も入荷待ちも少ない。青い線は②で入荷待ちの許し方を変えたときの点をつないだもの、赤い点が①のいまのルール、薄い赤の点はこれまでに試したルールです。同じ1年の売れ方を、3年分つなげて計算しています。

毎日の在庫(1月1日〜12月31日)

赤が①、青が②。0より下に沈んでいるところは、入荷待ちの台数です。薄い赤が3月〜GW前、細い縦の帯がセールの期間です。毎日の出荷の台数と届くまでの日数は、サイコロを振るように毎回ランダムに作っています。下のボタンを押すと、同じ条件のまま、それだけを作り直してもう一度試します。

①は、経験のある担当者がやっていることをまねたルールです。山やセールの前は余裕を増やし、船が遅れたら次から見込む。勘といっても、中身はちゃんと理屈が通っています。①と②は、同じ期間の出荷を見て、同じ平均を使っています。違うのは、余裕の持ち方だけです。つまみをうまく選べば、赤い点は青い線の近くに乗ります。

問題は、その「うまい日数」が、条件が変わるたびに変わることです。下の表は、①のいまのルールのまま、出荷のばらつきと届くまでのぶれだけを変えたときの、1年の入荷待ちの台数です。

①は、同じ「余裕◯日分」でも、条件が穏やかなら持ちすぎ、荒れると足りなくなります。船の遅れも、遅れてから気づいて足すので、ぶれが大きくなるほど後手に回ります。②は、出荷のばらつきも届くまでのぶれも測って余裕を合わせるので、条件が変わっても入荷待ちを近い水準に保ちます。寝ているお金は条件に合わせて増えたり減ったりしますが、それは「必要な分だけ」持った結果です。

入荷待ちが出た直後に多めに頼むと、届いた頃には在庫が山になります。これも、余裕を測らずに気持ちで足していることになります。

見る期間を変えると、①も②も一緒に動きます。短くするとたまたまの売れ行きに振り回され、長くすると売れ行きの変化に気づくのが遅れます。ここも、実績で答え合わせして決めるところです。

寝ているお金の大半は、実は倉庫ではなく船の上の在庫です。発注のやり方で減らせるのは倉庫の分だけで、船の上の分は「届くまでの日数×毎日の出荷」でほぼ決まります。船の上のお金を減らしたければ、発注のやり方より、届くまでの日数そのものを縮めるほうが効きます。

同じ入荷待ちの水準で寝ているお金が少なければ、その差はそのまま手元に残る現預金です。在庫を減らすのは、倉庫を狭くするためだけでなく、お金を寝かせないためでもあります。

青い線のどこに立つか、つまり入荷待ちをどこまで許すかは、ソフトではなく人が決めることです。ただ、線から外れた場所に立っていることには、数字にしないと気づけません。

色が増えると、在庫は色の数だけ増える

家具は、1回の発注で色ごとに最低ロットがあります。人気の色はすぐに捌けますが、たまにしか売れない色にも、同じ数が入ってきます。全部の色を合わせた出荷は1日平均5台のまま、色の数と最低ロットを変えて、②の発注で240日間回したときの在庫です。

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全部の色を合わせた平均の在庫
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同じ売れ方で、色が1つだけだった場合
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一番積み上がった日の倉庫の床(2m積み)
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全部の色の在庫に寝ているお金(平均)
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色が1つだけだった場合と比べて、余計に寝ているお金

色ごとの売れ方と、平均の在庫

棒の上の数字は、その在庫が何日分の出荷にあたるか。売れない色ほど、何十日分も抱えることになります。

売れ方の合計は同じでも、色を分けた瞬間に、色ごとに最低ロットと欠品への備えが必要になります。売れない色ほど、最低ロットの20本を売り切るのに何十日もかかり、そのあいだ倉庫の床を占めています。在庫を減らしたいなら、発注のやり方より先に、色の数と最低ロットを見直したほうが効く場面もあります。

在庫が揺れるのは、売れ方より発注のせい

在庫が多すぎたり少なすぎたりするのは、売れ方が読めないからだと思われがちです。そして在庫が多すぎれば、その分だけ現預金が倉庫に寝ます。でも、ここまでを見ると、揺れの大部分は発注のやり方と、その前提になる数字の置き方から来ています。

頼む量 = 届くまでに売れる見込み + ばらつきに備える分 − 今ある在庫と、頼んである分

出荷の見込みは、直近の数日ではなく、何週間分かの実績から出します。ばらつきに備える分も、勘ではなく、実際の売れ方のばらつきから出します。それを毎日の実績で答え合わせして、見込みとばらつきを直し続けます。やっていることは足し算と引き算と平均だけですが、人の不安や焦りが入らない分、在庫は落ち着きます。

このページの計算は、考え方を説明するためにかなり単純にしています。実際の発注では、セールや季節、為替、船の空き、色や柄の違いなども条件に入ります。原則としては、こういう考え方で在庫を見ています。