精密などんぶり勘定 – 売れ行きの流れを読む

毎月の売上を見ると、先月より増えた、前の年より落ちた、と何か言いたくなります。でも、その増減の多くは季節とセールの並びで、売れ行きそのものの変化ではありません。

このページでは、輸入商社のソファの4年分の売上で、売れ行きが落ち始めたことにいつ気づけるかを、前月比・前年同月比・季節を抜いた流れで比べます。よくある欠品と予約に惑わされない数え方と、流れが読めれば廃版の時期や新作の出しどきまで先に決められることも確かめます。

毎月の数字には、売れ行き以外のものが混ざっている

ある輸入ソファの、4年分の毎月の出荷台数です。この数字には、売れ行きそのもののほかに、いろいろなものが混ざっています。

  • 季節:新生活の3〜4月は普段の1.4〜1.6倍。夏は2割ほど落ちる
  • セール:3・6・9・12月の第1週の7日間で、その月は1割5分ほど上がる。暦によって、前の月の末にかかる年もある
  • 欠品と予約:欠品した月は出荷が凹み、予約で待っていた注文は入荷した月にまとめて出て、出荷が跳ねる
  • 値段:普段は変えず、セールのときだけ値引きする。為替に合わせて売値を改定する会社なら、改定のたびに売れる数が段差状に変わる(下の条件で、2023年からの実際のドル円で試せます)
  • たまたまの揺れ:毎月、上にも下にも1割くらい

その奥で、どこかの月から、売れ行きそのものがこっそり変わり始めています。毎月4%ずつ落ち始めたのか、3%ずつ伸び始めたのか、それとも変わっていないのか。商品ごとにランダムです。

グラフの棒をクリックして、変わり始めたと思う月を選んでください(「変わっていない」なら月は選ばなくて構いません)。混ざりものを1枚ずつはがしてから答えても大丈夫です。

このページは、上から下まで、この1つの商品の4年分のデータを通しで使っています。下の段の「いつ気づけるか」「廃版・新作・在庫増強の見込み」も、すべてこの商品の話です。「次の商品」を押すと、全部の段が新しい商品に切り替わります。

混ざりものを1枚ずつはがしていくと、何が見えてくるかを試してください。

毎月の出荷台数(4年分)

条件を変える

1年目を2023年として暦を当てています。赤い字は、セールの始まりが前の月にかかっている回です。第1週は「1日を含む週(月曜はじまり)」です。

④まではがすと、平らだった線が、ある月から下り坂(または上り坂)になっているのが見えてきます。ここまでやって、ようやく「売れ行きそのもの」の話ができます。次の段では、この変わり目に「いつ」気づけるかを比べます。

流れの変わり目に、いつ気づけるか

同じ数字を、3つの見方で見てみます。どれも「変わった」と判断する決まりを置いて、変わり始める前に何回「変わった」と言ってしまったか(空騒ぎ)と、変わり始めてから何か月で気づけたかを数えます。落ちたことに気づけば廃版や新作の準備に、伸びたことに気づけば在庫の増強に動けます。

  • 前月比:出荷が先月より15%以上減ったら「落ちた」(増えたら「伸びた」)
  • 前年同月比:出荷が去年の同じ月より10%以上少ない(多い)月が、2か月続いたら「落ちた」(「伸びた」)
  • 12か月移動合計(年計):直近12か月の出荷の合計を毎月出す。季節が自然に消えるので、昔から現場で使われている方法。それまでの一番高いところから5%以上下がったら「落ちた」(一番低いところから5%以上上がったら「伸びた」)
  • 移動平均の並び(3・6・12か月):出荷の3か月・6か月・12か月の移動平均が、下から3・6・12の順に並んだ月が2か月続いたら「落ちた」(上から3・6・12の順なら「伸びた」)。株価のチャートでよく使う読み方
  • 季節を抜いた流れ(出荷のまま):出荷を、去年の実績から取り出した季節とセールの倍率で割り戻し、残った流れが、たまたまでは説明できないほど下(上)に積み重なったら「落ちた」(「伸びた」)
  • 季節・欠品・値段を抜いた流れ(受注日で数える):出荷ではなく、注文を受けた月で数える(予約もその月に入れる)。予約にもならなかった売り逃しの分は、在庫があった日の割合から補う。そのうえで季節とセール、値段の効き目(過去に値段を動かしたときの実績から測った割合)を割り戻し、同じように判断する

見分け方の基本は単純です。出荷が減ったら、まず受注残と在庫を見ます。

出荷受注残在庫読み方
減った増えた切れていた問題なし。売れ行きは落ちていない。入荷を待っているだけ
減った増えていない切れていた売れ行きは落ちていないが、売り逃している。在庫の持ち方を見直す
減った増えていないあった本当に売れ行きが落ちている

受注日で数えるやり方は、この見分けを毎月まとめて自動でやっているのと同じです。受注残に積み上がった分は売れ行きとして数え、在庫切れで逃した分だけを補います。

季節を抜いた流れ

前月比は、毎年5月と7月に必ず「落ちた」と言います。4月の山やセールの月から下がるのは当たり前だからです。何度も空騒ぎをする指標は、本当に落ちたときにも信じてもらえません。

12か月移動合計(年計)は、計算が足し算だけなのに、成績はかなりいい方法です。12か月を足すだけで季節が消え、揺れもならされるので、気づくのも前年同月比と同じくらいか、少し早いくらいです。弱いところは2つあります。1つは、出荷をそのまま足すので、欠品や値段の改定がある月に引きずられて、空騒ぎが出ること。もう1つは、12か月をならしているので、いつから・毎月どれくらいの速さで変わったのかが読み取りにくいことです。廃版や新作の時期を先読みするには、その2つが要ります。

3・6・12か月の移動平均の並びは、目で見て分かりやすい読み方です。ただ、6か月の平均には季節が半分残っているので、春やセールのたびに並びが入れ替わり、空騒ぎが出ます。並びが揃うのを2か月待つ分、気づくのも年計より1か月ほど遅れます。季節を割り戻してから同じ並びを見れば、この弱さは消えます。

前年同月比と、出荷のままの流れは、欠品がなければ十分に使えます。でも欠品があると、欠品のたびに「落ちた」と言ってしまいます。売れ行きは変わっていないのに、です。しかも、欠品の月が「ふだんの姿」を揺らすので物差しが甘くなり、本当に落ち始めたときに気づくのも遅れます。それを真に受けると、売れている商品の発注を減らし、また欠品して、また落ちたように見える、という悪循環に入ります。

値段も同じです。値下げで伸びた分を流れの変化と読むと、値下げをやめた途端に「落ちた」と言い、値上げのあとはずっと「落ちた」と言い続けます。値下げで売れるのは当たり前なので、その分は流れから外して見ます。値段の効き目は、過去に値下げしたときの実績から測れます。

受注日で数えて、売り逃しだけを補い、値段の効き目も割り戻した流れなら、欠品の谷も予約の山も消えて、空騒ぎは欠品がない商品と同じくらいまで減ります。そのうえで、季節とセールを割り戻しているので、落ちる速さまで測れます。必要なのは、在庫があった日、注文を受けた日、予約で残った注文、の3つの記録です。在庫・受注・出荷の記録が同じところにあれば、毎月自動で数えられます。

流れが読めれば、廃版・新作・在庫増強の時期が先に分かる

変わり目に気づいたら、それまでの値から「いつごろ変わり始め、毎月どれくらいの割合で動いているか」を見立てて、先に伸ばします。落ちているなら廃版の線(季節を抜いて、この台数を下回ったら次のロットは頼まない)に、伸びているなら在庫増強の線(この台数を超えたら、発注の基準やコンテナの本数を一段上げる)に、いつ届くかが、届く前に分かります。

落ち目になってきたら、廃版にするか、新作に入れ替えるかを決めなければいけません。下のグラフには、旧製品の流れの見込みに、新作を一番いい月に出した場合の新作の流れと、両方を足した合計の流れも重ねています。トレンドラインの上で、廃版と新作の判断を一緒に見るためです。

落ち始めた商品:廃版の線にいつ届くか

–
変わり目に気づいた月
–
その時点で見込んだ、線に届く月
–
本当に届いた月

廃版のページでは、「売れ行きの落ち方」を入れると廃版の線が引けました。その落ち方を、勘ではなく実績から測るのがこのページです。伸びているときも同じで、気づくのが数か月早ければ、届くまで何か月もかかる輸入品でも、山が来る前に在庫を厚くしておけます。

落ち目なら、新作を何月に出すか

落ち始めに気づいたら、次に考えるのは、代わりの新作をいつ出すかです。早すぎると旧製品の在庫が売れ残り、遅すぎると旧製品が切れたあと、売る物のない空白ができます。どちらも、旧製品が今どれくらい売れていて、毎月どれくらいの割合で落ちているか、つまり上で見立てた流れで決まります。新作の投入時期は、トレンドの読み方そのものです。

ここでは、気づいた月を「今」として、上の見立て(今の売れ行きと落ち方)をそのまま使い、新作を何月に出すと、そこから2年間の粗利が一番大きくなるかを比べます。旧製品はこれ以上頼まず、手元の在庫を売り切ったら終わりとします。

1台あたりの粗利は、旧製品15,000円、新作16,000円、代替品8,000円。新作が出て半年たっても残っている旧製品は、仕入れ値の3割で処分します。在庫の持ち代は1台・1か月300円です。

新作を出す月と、2年間の粗利

棒をクリックすると、その月に出した場合の中身が下に出ます。濃い棒が、一番粗利が大きくなる月。薄い赤の帯は3〜4月の山です。

毎月の売れ方

灰色が旧製品、青が新作、薄い緑が代替品、赤い斜線が売る物がなくて逃したお客さんです。

旧製品の落ち方が速いほど、在庫が少ないほど、出しどきは早くなります。食い合いが大きい新作なら、旧製品の在庫を残しておく意味が薄れて、これも早くなります。春の山に新作を間に合わせたいなら、立ち上がりの分だけ前に出す必要があります。どれも、流れの見立てが入口です。

数学として、何をしているか

このページでやっていることは、統計の教科書に載っている、古くからある道具の組み合わせです。AIと呼ぶほどのものではありません。数学としてどういう考え方なのかを、順に書きます。

1. 売れ行きを「掛け算」に分ける

その月の注文 = 流れ × 季節 × セール × 値段の効き目 × たまたまの揺れ
セールの倍率 = 1 + 0.65 × その月に入っているセールの日数 ÷ その月の日数

売れ行きは、いくつかの要因の掛け算でできている、と考えます。足し算ではなく掛け算にするのは、「3月は1.6倍」「1割引で2割増し」のように、どれも倍率で効いてくるからです。セールは「n月の第n週」で決まるので、その年の暦から、各月にセールの日が何日入っているかを数えて倍率にします(7日まるごと入れば約1.15倍)。掛け算のモデルは、両辺の対数をとると足し算になります。季節やセールや値段で「割り戻す」のは、対数の世界ではその分を「引く」ことで、残ったものが流れ+たまたまの揺れです。

2. 欠品の月は「打ち切られた」データとして補う

注文の推定 = max(受注の記録, 在庫から出せた数 ÷ 在庫があった日の割合)

欠品した月の出荷は、本当の需要がそこで打ち切られた値です。統計では「打ち切りのあるデータ」と呼び、そのまま平均すると、需要を小さく見積もってしまいます。予約で残った注文は受注の記録に入っているのでそのまま数え、予約にもならなかった分は、在庫があった日の売れ方がほかの日も続いていたと仮定して補います。

3. 値段の効き目は、近くの月との比で測る

効き目 = 値段を変えた後3か月の流れ ÷ 前3か月の流れ(の真ん中)を、値段を変えた幅と比べる

経済学でいう価格弾力性です。1割引で何割増えるか、を実績から測ります。為替に合わせて売値を改定する会社なら、改定のたびに「値段だけが変わった前後」という比べやすい場面ができます。普段は値段を変えない会社なら、この割り戻しはいりません。比べる相手を「前後3か月」に絞るのは、流れそのものがゆっくり動いていても、近くの月どうしならほぼ同じだとみなせるからです。変えた幅が大きい改定ほど、重く数えます。真ん中(中央値)を使うのは、たまたま大きく外れた月に引っ張られないためです。値段を動かした回数が少ないほど、この測り方の誤差は大きくなります。為替の改定は年に2回ほどで、幅も5%程度なので、1つの商品だけでは粗くしか測れません。同じ種類の商品をまとめて測れば、改定の回数が何十倍にもなり、効き目はずっと正確に出ます。

4. 移動平均は「見る」ため、判定には使わない

3か月移動平均 =(今月 + 先月 + 先々月)÷ 3

3か月の平均は、たまたまの揺れを約6割まで小さくします(揺れの大きさは平均する月数の平方根で割れるので、1÷√3)。その代わり、平均の中心は1か月前にあるので、変わり目には1か月ほど遅れて反応します。線として眺めるにはちょうどいいのですが、「いつ変わったか」の判定には向きません。

5. 変わり目の判定は、累積和(CUSUM)

z =(今月の流れ − ふだんの平均)÷ ふだんの散らばり  S = min(0, 先月のS + z + 0.5)  S < −3 で「落ちた」

品質管理で、工場の機械のわずかなずれを見つけるために1950年代に考えられた方法です。毎月、ふだんの平均から散らばり何個分ずれたか(z)を出し、それを積み上げていきます。毎月0.5個分ずつ差し引くので、ふだんの揺れ(プラスとマイナスがだいたい同じだけ出る)は積み上がらず、ゼロに戻ります。下向きのずれが何か月も続いたときだけ、積み上げが−3を超えます。伸びのときは向きを逆にして同じことをします。

0.5と3という2つの数は、「空騒ぎの少なさ」と「気づくまでの早さ」の釣り合いで決めます。3を大きくすれば空騒ぎは減りますが、気づくのは遅れます。前月比や前年同月比のように1か月や2か月だけで判断するやり方は、1回の大きな揺れに反応しやすく、小さなずれが続くことには鈍い、という逆の性質を持っています。

6. 見立ての線は、変化点のある回帰

流れ = ふだんの平均(c月まで)  流れ = ふだんの平均 ×(1 − g)月数(c月から)

「ある月cまでは平らで、cから毎月一定の割合gで減る(増える)」という折れ線を、気づいた月までの値に当てはめます。対数をとると、cから先はまっすぐな線になるので、普通の最小二乗法(実績との差の二乗を一番小さくする)が使えます。折れる月cは、ありえる月を全部試して、差が一番小さいものを選びます。変化点のある回帰と呼ばれる形です。

線に届く月 = c + log(線の台数 ÷ ふだんの平均)÷ log(1 − g)

あとは式に入れるだけで、廃版の線や在庫増強の線にいつ届くかが出ます。新作の出しどきも、この「今の水準」と「g」をそのまま使っています。

7. この数学が前提にしていること

  • 季節の形は毎年だいたい同じで、セールは暦どおりに来る:セールは「n月の第n週」の7日間として、その年の暦から、各月にセールの日が何日あるかを数えて倍率を組み立てています。月ごとの決まった倍率にしてしまうと、セールが前の月にかかった年に割り戻しがずれます。季節の形そのものが年ごとに変わる商品では、毎年の実績で形を直し続けます
  • 値段の効き目は一定:本当は、大きく値下げすると効き目が鈍ったり、競合の値段で変わったりします
  • 変わり目は1回で、そこからは一定の割合:途中でまた変わると、見立ての線は外れます。そのときは判定をやり直し、新しい変わり目から当てはめ直します
  • たまたまの揺れは、月ごとに独立:前の月の揺れが次の月に引きずられる商品だと、空騒ぎが増えます

どれも、完全には成り立ちません。だから、出てきた見立てを毎月の実績で答え合わせして、前提がずれていたら直します。数学は一回で正解を出すためではなく、答え合わせを続けるための物差しとして使っています。

このページの計算は、考え方を説明するためにかなり単純にしています。実際には、値上げや新しい販路、競合の新商品なども流れに効いてきます。原則としては、こういう考え方で売れ行きの流れを読んでいます。

精密などんぶり勘定とは

経験と勘で行っていた見積もりを、実績データとの照合で継続的に補正し、人や日によるばらつきを小さくする手法です。補正には機械学習などを使います。

どんぶり勘定なのは、細かいところは丸めて、結果が変わるところだけを見るからです。

精密なのは、人間と違って、過去との答え合わせを自動で続けるからです。人は昨日の外れを忘れたり、たまたま当たった日だけを覚えていたりします。ソフトウェアは毎日の実績を全部同じ重さで覚えていて、ずれた分だけ次の日の見込みを直します。

このページのデータについて:このページの数字や商品・会社・倉庫などは、すべて公開されている情報などを参考に、シミュレーションで作り出した架空のデータです。お客様の実際のデータは、一切利用していません。